物心がつく頃に母親はいなかった
そして母親というイメージが
自分の中になかった私は、
「母親に会いたい」という言葉は
出てこなくて
「死神に会いたい」という
なんだか危険な言葉に置き換わった
死神というと怖い魔物のような骸骨を
イメージする人が多いと思う
私がそう思わなかったのは
その頃、読んだ本の中に次のような記述が
あったからなのかもしれない
”死神は慈悲深い神である
魂が迷わないようにする道案内である”
死神に会えば
見た事もない母親に会える気がしたのだ
今、その夢が叶うかもしれない
息子も、もう心配はいらないだろう
妻を置いていく事を少し申し訳なく思いながら
私は、目を閉じた
「ねぇ お母さんは何処にいったの?」
「この先で待っているよ」
特に物に執着するタイプではないのだが
一つ捨てられない物があった
「夢」
この年になって夢の事を
人に話すのは
恥ずかしい事であるような気がして
妻にもこの事を話していない
「〜に会いたい」
その夢の始まりは
小学校2年の国語の授業
普段特に考えていた訳ではなくて
先生に聞かれたときに
始めて言葉として現れた
それから今まで
捨てられずにいた夢。
分別のある頭で考えれば
無理だとわかる
そんな夢
捨てられない夢
死神に会いたい
最近まだ使えるものでも
簡単に捨てられてしっまって
「サッカー選手になりたい」
「歌手になりたい」
小さな子供の夢から
「○○大学に合格!」
「▲キロやせる!」
大小の目標
自分には無理かな
それらはまだ輝いているのに
それらはまだ可能性を秘めているのに
簡単に捨てられた夢
簡単に捨てられた目標
簡単に捨てられた恋
それは形を変えずに
ここでいつまでも
砂人
「行って来ました
うん 素直に感激
本で見る絵と迫力が違います
渋谷でただいま公開中
公開中にもう一度くらい
行きたいなぁ
一緒に行ってくれる方募集
「トオルはずっと私といるはずなのに
今日、女の人といて、それも仲よさそうに
隣で今日、私がずっとトオルの事
いつも隣なのにそれなのにトオルが」
「京子、落ち着いて
トオルは、今日ずっと自分と一緒に居たから
女の人と一緒にいったって言うのは
間違いだよ。
そもそもトオルなんて人はいないから
京子、京子
京子なんて いない
居るのは自分ひとり
まだあどけない顔の少年は
奇声をあげていた
髪を短く切って茶色に染めている少女は
胸に手をあてて鼓動を聞いていた
逞しいという言葉が似合いそうな男は
すすり泣いていた
眼鏡を掛けた初老の女性は
持っていた杖をめちゃくちゃに振り回していた
暗い闇の中で
みんな自分の存在を確かめていた
最近、
夢と現実の境界が更に曖昧になってきている
今日の夢の内容は覚えていないが
目が覚めた後でもどこか現実感のない感覚が続く
夢が現実味を増してきたのか
現実が儚くなってきたのか
夢は元々、現実感を持っている
夢の中で何者かに追われていたとする
たとえそれがどんなにおかしい状況であったとしても
夢の中での僕は必死であろう
ただそれが短時間であることと、
現実からはあまりにかけ離れている為に
夢との一言で片つけられてしまう
夢と記憶は同等のものである
いや夢は記憶から作りだされるもので
本来は一緒のものである
ただ、今みている世界では起こらなかった
という点のみが違う
僕の今はどうであろうか
たぶん一般的な現実とは
かけ離れているのではないだろうか?
もしこれが夢で、目が覚めるなんてことがあれば
この世界は夢の中の世界となってしまうかもしれない
そういった理由で夢と現実が曖昧なのだろう
だけど
たとえここが夢の中だとしても
この僕が夢の住人だとしても
ここで生きている限り
僕の現実はここにある
どんなに現実離れしたものでも
そこに生きている限り
本気で生きていかなくてはならない
僕は誰
ねぇ お母さん
なんで僕を生んだの?
あなたが必要だったからよ
ねぇ パパ
僕はなんで産まれたの?
意味はないだろ
する事をした結果だ
産まれた事ではなくて
生きている事に意味をみつけろ
実験の為、或は
何かの目的があって生まれてきた
人工知能と
産まれて来る事には
深い意味が無かった人
だからこそ人間は
自分で生きている事に
意味を求めなければいけないのだろうか
彼は僕に言った
「死ぬ勇気もない」
僕は彼に言った
「現実を捉える勇気もない」
彼は聞いていないようだ
彼は誰かに言った
「ここから飛び降りれば楽になるだろうか」
僕は誰かに言った
「君は楽になったのかい?」
白い雲の上で
静かな時間が流れてゆく
誰かが誰かに言った
「そろそろ行かないか?
君はここに未練がなくなったのだろ?」
もう誰の声かも分らない
「母親の涙が見えたんだ」
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